対談!“畑中良輔ワグネルを語る”普段よりお世話になっている畑中先生に、お話を伺ってきました。
インタビュアーは実行委員長の重光と、学生指揮者の仲光です。 |
| 重光 | まず今年のワグネルの印象はどうでしょうか? |
| 畑中先生 | いまは少数精鋭主義で行きたいなと思っている。いまは人数が多くないから、1人1人がしっかり正しいピッチで音楽的に歌うこと、たいてい男声合唱っていったらマッシブルな力でいくのが男声合唱だと思われているけど、いまはそれに対しての反旗をひるがえしているところなので、去年やったみたいな淡彩抄みたいな、いままで考えられないようなものをやっているわけです。だから男声合唱の別な面の開拓っていうのかな、こういう可能性、世界もあるということをわかっていただきたい。男声合唱はデリケートであって、密集和音の独特のサウンドがある。少人数ならではの新しい世界を開拓したいと思っている。 |
| 重光 | 現役のワグネリアンはそれにこたえられているでしょうか? |
| 畑中先生 | 今年の四連でやった「Liebeslieder」でその可能性がはっきり出てきたように思えます。今年の学指揮が非常にしっかりしているんですね。音楽ってものをよく体の中に把握している。知識だけじゃなくて。そういうものを持っている学指揮が現れたから、僕は非常にやりやすくて、助かっている。そのあたりが大きなターニングポイントになるんでしょうね。それがずっと続いてくれればいいけど。その伝統がね。今までもしっかりやってるんだけど、今年は桁外れにいいような気がします。 |
| 仲光 | ターニングポイントとおっしゃいましたが、来年以降、どんなものをやっていきたいですか? |
| 畑中先生 | 大勢でないとできないものもある。例えばワーグナー。ワグネルだからやっぱりワーグナーはやりたいんだけど、少人数ではワーグナーの音量が出せないから、いまはできない。いまの人数で何ができるかということが、毎年僕の悩みのたねで、来年どれくらいの人数が入って来るか、それで曲を考えるから。 |
| 重光 | 水のいのちは約10年ぶりになりますが…。 |
| 畑中先生 | 定期演奏会にきていただいた人たちに、全ての命の根源である水がどこまで危険なところにきているかを音楽によってメッセージしたいという気持ちが大きいから、それを夏合宿でまず団員に、特に1年生の人たちに人生論を交えて伝えた。それによって彼らの目が開いたのか、耳が開いたのか、心が開いたのか…。みんないい人生を送りたいけどそれができない状況にある。日本だけでなくて…。音楽を通じてプロテストしていく気持ちを、水のいのちを歌うことで心の中で育てて欲しいな、と。いまの現実にとにかく押しつぶされないようにしたい。
こういういまのような閉そく状況にあって、水道水を飲めない時代がきてしまって、10数年前に水のいのちを演奏した時も、同じメッセージを書いた。そのメッセージがいまもそのまま通用してしまう。いや、もっと悪くなってきている。あの頃の水道水に入っていたのはまだ塩素だけだったけど、今はトリハロメタンが入るようになってしまった。トリハロメタンはいろんな有機物と結合して発ガン性が強くなってしまう。そんな水を今の日本は国民に飲ませなければならなくなってしまった。僕は東京にビルが一つ立つごとに、こころがすごく痛む。そのビルで人々がどれだけ多くの水を使うか…。それで浄化しきれなくなって、塩素を入れるようになった。プールの水よりもひどいかもしれない。それでも浄化しきれないから、有害とわかっていてもトリハロメタンのようなものを使う。ビルの規制などをしない政治が貧困だと思う。 |
| 仲光 | 水のいのちを演奏するにあたっては…。 |
| 畑中先生 | 水が海から水蒸気となって上がっていくだけじゃなくて、もう1回、どの人にもやわらかい平和な雨が降るように強くメッセージしたいなと思っている。水の輪廻でどんな汚れたものでも海が浄化してくれる、ということを。 |
| 仲光 | 水のいのちを取り上げたのは最近の事だと思いますが…。 |
| 畑中先生 | 僕自体が、水と現代の生活に関して、音楽がどこまで関れるかをあまり考えなかった。考え出すと、大変な問題を抱えてて、高田さんがやっぱりそこまで深くは考えられなかったかもしれないけど、そういうものを引き出せる音楽を高田さんが書いているわけだから、やればやるほど、実感できるんだよ。 |
| 仲光 | 初めてワグネルに来られたときは声作りを主眼にされたのですか? |
| 畑中先生 | そうせざるをえないでしょう。僕は38歳のときにワグネルに来たけど、聞かせてちょうだいっていって歌った声が、ハーモニーは鳴らない、変な声で、一瞬目の前が真っ暗になって…。それまで僕はアマチュアを教えたことがなかったから、戸惑ってしまった。どうしたらいいのか分からなくなってしまったのね。そのときは、声というのはどうやったら出るものなのかという理論から始めた。2時間くらい声の仕組みについて話をして、じゃあ声を出してごらんっていったら、全然違う声が出ちゃったことに僕が驚いて、なんてアマチュアって素晴らしいんだって思った。専門家を教えても知識とかがあってそうはいかないから…。 |
| 仲光 | 発声については何かありますか? |
| 畑中先生 | 人間の持っている体の機能を全部使い切って、いろんなものができればいいなと思う。もしみんなの感受性が豊かになれば、Liebesliederを歌えば自然とドイツ音楽のできる発声になり、水のいのちをやれば自然に日本語がきれいに出るようになるし、それが一番自然なのね。自然であること、自然に感じること、それを強く感じる。気持ちが変わるだけでも声が変わるということです。軟口蓋をどうしろ、支えをしっかりしろというのは些末なことであって、木下先生は芸大で発声を絶対に教えなかった。「音楽を感じたらそのような声になるよ」って。ところがみんなそれが貧しいから、なかなか声がそうならないけど、これは名言だと思う。音楽を感じる心があれば、発声が変わるっていうこと。だからみんな変わらないで機械的に歌っていることが多いから、いくら言っても表情一つ変わってないんだもの。 |
| 重光 | 先生から何かを感じ取って歌うことが必要だと考えますが…、 |
| 畑中先生 | それは4年間一緒に練習すれば、僕の考え方と人生に対応する姿勢は分かると思う。それが分からないのはまだ感受性が鈍いっていうこと。80歳を過ぎても僕は椅子に座って指揮をしたことはワグネルを教える上では一度もない。これだけ僕を燃え立たすものが音楽の中にある。例えば合宿では朝から夜まで、1時間の休みが2回あるだけであとは1日中びっしり音楽をやっているじゃない。そんな指揮者は他にいないと思う。それだけ情熱をもっている人はいないんじゃないかな。 |
| 重光 | そこまで情熱をもっていただけるのは…。 |
| 畑中先生 | いや、僕はワグネルのためじゃなくて、自分のためにやっているのかもしれないね。 |
| 重光 | 今年は「A.C.T.」がはこね学生音楽祭で最優秀賞に選ばれましたが…。 |
| 畑中先生 | その話を聞いて驚いたんだけど、それはやっぱりスティーブ(仲光)が力をもってるってことだと思うよ。 |
| 重光 | バーバーショップはお聞きになったことはありますか? |
| 畑中先生 | いろんなテープで見たり聞いたりはしているよ。僕の中にはないジャンルだから、大いにそれができて楽しんで、人を癒すジャンルのものとしてやればいいなと思う。僕がやれって言われてもできない。そういう能力はないから。 |
| 重光 | 定演で仲光の指揮でやりますが…。 |
| 畑中先生 | いいんじゃない? 大いにやればいいと思うよ。 |
| 仲光 | あぁ、大いにやります。(笑) |
| 一同 | あはは。(笑) |
| 畑中先生 | でも、僕にできないことをやるんだから、僕と同じことをやろうとしても、絶対に上手くいきっこないことは分かってるでしょ。それは20歳と80歳っていう差だよね。 |
| 仲光 | 先生の棒で歌わせていただいて、練習のときに毎回おっしゃることが違うと思うんですが…。 |
| 畑中先生 | 言うことも違う、振ることも違う、全部が毎日違うんです。100回振ったら100回違う。だから気を許さないでほしい。その時々で何を感じ取るかによって違ってしまうんです。自分が思ったことをその時々で正直に要求し、「じゃあやって」っていう。だから本番だってどうなるか、僕にも分からない。 |
| 重光 | 若い頃にはどんな音楽をお聞きになったのですか? |
| 畑中先生 | まあ何でも…好奇心の権化だから。例えばロックも聞くし。ローリングストーンズもドームに行って聞いたし。ビートルズが初来日したときも武道館に聞きに行って。フラグリンだってそうだね。ちゃんとお金払って行ってるよ。CDも持ってる。ビートルズは全曲持ってるよ。サンタナは少し持ってる。それと同時に、MJQみたいな高度な室内楽もあるね。サンタナを聞いて、楽しめないような人たちはかわいそうだと思うね。 |
| 仲光 | 一つのジャンルに特化するべきではないと…。 |
| 畑中先生 | 全てのものに可能性のある人間になって欲しいから。その一端としてワグネルがあるっていうことだと思うよ。 |
| 仲光 | まだまだ健康な畑中先生ですが、健康法についてお聞かせください。 |
| 畑中先生 | 僕はもう10年間野菜ジュース。13種類か14種類をミキサーにかけて、毎朝2杯飲んでる。夜にもう1杯飲む。それが僕の健康法だね。この歳になってまだまだ元気でやっていられるのは、肉ではなく野菜の力。それと水だと思っている。野菜はできれば減農薬か無農薬だけど、探すのが大変。例えば大葉は6回も7回も農薬をかけるほど一番虫がつきやすいのね。あんなにきれいな葉っぱがあること自体がおかしい。だから大葉を使うときは20分以上は水につけてから使うようにしている。 |
| 重光 | 最後に先生がワグネリアンに期待することは何ですか? |
| 畑中先生 | よりよき人生の出発がワグネルであってほしいなと思う。中学・高校というのは一応自意識はもっている。だけどその自意識が本当に自分のものとして働くのは大学の年代だと思う。そういうときに、水のいのちのようなものにめぐりあった人は一生どれだけ素晴らしい広がりができるか、そういう体験を全然しない人生を送った人は、歌うにしても聞くにしても、貧しいと思うから。ワグネルで頑張って下さい。 |
ご多忙の中、ありがとうございました。
貴重なお話はまだまだありましたが、紙面の都合上、割愛させていただきました。
これからもワグネルをよろしくお願い致します。 |