117回
演奏者


 第117回定期演奏会 

1992年12月
16日(水) ゆうぽうと簡易保険ホール
20日(日) 東京厚生年金会館大ホール


演奏曲目  試聴可 
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  1. 畑中指揮 男声合唱組曲「草野心平の詩から」
  2. 畑中指揮 チャイコフスキー歌曲集II
  3. 学生指揮 男声合唱のための「三つの抒情」
  4. 北村指揮 「101匹“ワグ”ちゃん大行進
  5. 畑中指揮 喜歌劇「こうもり」より
  6.      アンコール

先生の言葉 畑中北村大久保三浦谷池西川小泉酒井服部川原

作詩作曲編曲者より 多田三善源田

 PROGRAM 

慶應義塾塾歌
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第1ステージ
男声合唱組曲「草野心平の詩から」

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  1. 石家荘にて
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  3. 金魚
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  5. さくら散る
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第2ステージ
チャイコフスキー歌曲集II

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  1. ТО БЫЛО РАННЕЮ ВЕСНОЙ
       《それは早春のことだった》
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  2. МЫ СИДЕДИ С ТОБОЙ
       《僕は君と一緒に座っていた》
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  3. СЕРЕНАДА
       《セレナード》
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  4. НЕ ВЕРЬ, МОЙ ДРУГ…
       《友よ信ずるな…》
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第3ステージ
男声合唱のための「三つの抒情」

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  1. 或る風に寄せて(暁と夕の詩より)
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  2. 北の海
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  3. ふるさとの夜に寄す
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第4ステージ
「101匹“ワグ”ちゃん大行進」
 〜ディズニー名曲集〜

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  1. Alice In Wonderland 〜不思議の国のアリス〜
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  2. I'm Late 〜不思議の国のアリス〜
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  3. Cruella De Ville 〜101匹ワンちゃん大行進〜
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  4. When You Wish Upon a Star 〜ピノキオ〜
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  5. Heigh-Ho 〜白雪姫〜
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  6. Lobe Is a Song 〜バンビ〜
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  7. Let's Go Fly a Kite 〜メリーポピンズ〜
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第5ステージ
喜歌劇「こうもり」より
(男声合唱版初演)

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  1. Ouvertüre  《序曲》
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  2. Duo  《二重唱》
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  3. Introduktion  《導入曲》
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  4. Ensemble und Couplet  《アンサンブルとクープレ》
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  5. Finale II  《フィナーレ第2幕》
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  6. Brüderlein und Dui-du  《兄弟となれ、姉妹となれ》
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  7. Valse und Finale III  《ワルツとフィナーレ第3幕》
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アンコール&ステージストーム
  1. Del cabello mas sutil (お前のそのお下げ髪から)
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  2. Slavnostni sbor (祝典讃歌)
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  3. 若き血
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  4. 我ぞ覇者
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  5. 丘の上
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 先生の言葉 

専任指揮者・畑中 良輔
第117回定期演奏会に寄せて

 今年の定演は「草野心平の詩から」から始まります。目下東芝EMIで、《多田武彦男声合唱曲全集》の企画が進んでおり、この心平の合唱組曲を委嘱初演したワグネルと私に録音のオハチが廻って来ました。ワグネルは既にこの曲のCDが出ているのですが、今回は改訂版の楽譜による演奏なのです。この定演の直後に録音となるでしょう。練りに練った決定版を残すべく、定演でも名演を期して目下練習に励んでいるところです。「チャイコフスキー歌曲集II」は好評のパートIを受けて。OBの藤森数彦君が編曲に挑戦、流麗な旋律と、Iにみられる和音の新しい書法が感じられます。最後のステージは「こうもり」。今回は新しい試みとしてエレクトーン伴奏で、オペレッタの世界を明るく、愉しく再現したいと思っています。小泉真一さんの手から、どんなオーケストラの音が流れ出すでしょう。大いに期待して下さい。北村君の棒によるディズニーもワグネル・ダンシングチームの名(迷)演技で、たのしめること請合いです。

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客演指揮者・北村 協一
恐怖の原稿依頼

 その瞬間瞬間に創造し、それが次の瞬間には消えてゆく仕事をしている私には、私がこの世をおさらばしても、毒物のように何処かに残留し、誰か見知らぬ人にも読まれるかも知れない原稿書きほど、恐ろしいものはありません。勿論音楽だってこの現代、簡単に録音され、誰かに聴かれることは百も承知してはいますが。で、ずっと原稿を書くことが嫌で極力お断りしてきました。その都度担当者にねだられ、粘られ、お互い根気比べしてきた歴史があります。どうも、殊原稿となると、私には何か一種異様な緊張が走り、身構えてしまうのです。音楽をする時には全くない、やーな気分、重苦しい気分が漂うのです。だから筆のよく立つ物書きの方々に、大いなる憧れと、羨望を常に感じています。
 結論として、何かいい言葉で綴ろうとする、いい格好をしようとする浅はかさが原因なのでしょう。(今もその様で、嫌なんだ。)自分自身の奥の無さを感じさせてくれるもの、それが原稿依頼なのです。自分がさらけ出されてしまうこの行為、何時も何とかならぬものかと、定期演奏会が近づくといつも思うのです。指揮者は音楽を聴いて戴くことがメッセージと思うのですが、駄目でしょうか。 

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ヴォイストレーナー・大久保 昭男
第117回定期演奏会に寄せて

 今年もまた定期演奏会が大きくやって来ました。毎年のことながら、この春には立派な歌い手となって連中が社会に飛び立ってゆきました。そして四月には新しい歌い手のたまご達である一年生が決心してこのワグネルに入って来ました。学生なりに非常に貴重な時間を自分で作って、毎回の練習を重ねて来て今夜のステージで歌います。
 暑い日、寒い日、風の日、雨の日、大きな自然の中の毎日を楽しく、また苦しく生きて来て、決して止ることのない人生を音楽と共に歩んでいる若者たちと一緒に仕事が出来る私は本当に幸せものです。
 しかし、よりレベルの高い音楽に向っての日々の努力は決して楽なものではありません。
 その度毎の練習である音楽の時は夢中で過ぎてゆき、その時々の積み重ねがステージで素晴しく花咲く時の感激は他に比べることの出来ない深い歓びとなります。大学生の四年間、どうか勇気をもって堂々と進んでいってくださる様に私は願っています。
 今夜の歌が香り高い、色美しい花となって咲いて、聴きに来て下さいました澤山の方々の心に残りますよう祈ってやみません。

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ピアノ・三浦 洋一
第117回定期演奏会に寄せて

 木枯らしが冬空を吹き抜け、街行く人々が外套に身をつつむ頃が来ました。今年は例年より雪が早く、私もスキーを楽しみにしています。この季節になると、毎年の行事のようにワグネルの定期演奏会でピアノを弾いてきた私ですが、もうそんなお付き合いも20年を越そうとしています。決して短くはないこの繰り返しの中で私が毎回感慨を新しくするのは、かれこれふた昔も前の若者達も、いま私の目の前で唱っている若者達も、まったく変らないひたむきさと歓びをもって歌を唱っているということです。
 さて今年は、春の六連の「チャイコフスキー歌曲集II」をステージで共演させていただきます。きっと皆さんは今年もひたむきにこれらの曲に取り組んで今日の演奏を素晴しいものにしてくれるにちがいありません。

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ピアノ・谷池 重紬子
第117回定期演奏会に寄せて

 “えっ、もう一年!!”
 あっという間にまた定期演奏会の季節になってしまいました。
 ついこのあいだ、ウェスト・サイド・ストーリーを弾いていた気がするのに、坂をころがる?まではいきませんが、何と早いこと。演出ステージもこれで3回目。最初は非常に大変そうでしたが最近はもう手なれたもの。練習の時の手際のよさ。踊りもビデオにとって次の練習の時には完璧? 進んでむずかしい踊りに挑戦するなどワグネルパワーには圧倒されてしまいます。
 今年は“101ワンちゃん”ならぬワグちゃんで、北村先生の踊りも加え楽しいステージになりそうです。

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ピアノ・西川 秀人
第117回定期演奏会に寄せて

 私がはじめて慶應ワグネル・ソサィエティーと共演したのは、昨年12月の第116回定期演奏会で荻窪和明氏の作品「季節へのまなざし」を演奏したときのことです。
 そののち、フェアウェルコンサート、早慶交歓演奏会など、数回に渡って一緒に演奏会に出演する機会がありました。いつもその美しいハーモニーに、私はとても楽しく、充実感を持って共演することができました。
 今回又、三善晃氏の作品で一緒に演奏することになりましたが、ワグネルの素晴しい歌声でどのような作品になるのか、非常に楽しみであります。

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エレクトーン・小泉 真一
第117回定期演奏会に寄せて

 暑い夏も終る頃、思いがけなく合唱の伴奏のお話をいただき、私は日頃エレクトーンという楽器のアンサンブル効果と幅広い音楽ジャンルとの交流を追求して参りましたので大喜びでお引受致しました。ところがあの高名なワグネル・ソサィエティーとの共演と知りまして、いささか慌てました。高度な表現力を持つワグネルの皆様、そして演奏をお聴きくださる方々のご期待に果してお報いできるか?、不安の毎日でした。
 エレクトーンとの共演は初めてと伺いました。今日は私にも〈ELX-1〉にとりましても誠に記念すべき日です。ハイテク・サウンドの可能性を充分に出せるよう最前を尽くします。
 改めてこのような機会をお与え頂きましたことに心よりの感謝を申し上げます。

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独唱(ソプラノ)・酒井 美津子
第117回定期演奏会に寄せて

 さわやかな品格を長い伝統の中に保ち続け、正に「他に想像できぬほど強力」な指導スタッフの畑中先生・大久保先生・北村先生方のもとに活動していらっしゃるワグネルの皆様と共に歌わせていただけることを、大変うれしく、光栄に思っております。
 日本にはめずらしい、重厚な「ワグネル・トーン」は貴重な存在であり、聴く人々に、わくわくする喜びを与えます。これから、もっと多くの人たちに聴かせて下さるよう、ますますの御活躍をお願い致します。  

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独唱(テノール)・服部 洋一
第117回定期演奏会に寄せて

 第117回定期演奏会誠におめでとうございます。私自身ソリストとしての活動の傍、指揮者として多くの合唱団の指導育成に携わっておりますので、ワグネルの演奏には常々、大変興味を抱いております。特に昨年の定演での、畑中先生の指揮によるトスティ歌曲集の演奏には、発声技術の充実もさることながら、その抒情溢れる音楽表現の素晴しさには深く感動致しました。ワグネルには、かつて発音指導で練習にお邪魔させて頂いたこともありましたが(1988年「ニュームーン」)、このような思い出深い、また日本のトップクラスの男声合唱団と共に、更にまた芸大受験時代から今日に至る迄、不肖の弟子である私を温かく見守り育てて下さっている恩師畑中先生の指揮で歌わせて頂ける事を心から光栄に感じております。皆さんの音楽にかける熱意に応えられるような演奏をしたいと思います。1つひとつの演奏会を成長の発情となさり、日本の合唱界に常に新風を送るワグネルとして、今後も御成長、御発展されますことをお祈り申上げます。  

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振付け・川原 あけ未
第117回定期演奏会に寄せて

 「ウェスト・サイド・ストーリー」に続き、2回目のおつきあいとなります。最初は“踊る”ということに多々の気恥ずかしさ、戸惑い、抵抗があったことと思います。手と足の動きは中々一致してくれませんし、鏡に映す自分の姿は、頭の中で想像しているものとはかけ離れたものであったことでしょう。しかし、練習回数を重ねる毎に、目覚ましく進歩して、ステージでは、パワフルなN.Y.の若者に変身してくれました。「振付け…」というアナウンスが流れた後の客席の反応(驚き)が大変大きかったので、私もドキドキしながら観ていたことを覚えています。さて、今回は「ディズニー名曲集」ということで前回とはうってかわったステージングになることと思います。団員の方々の新たな魅力を今回も発見していただけることでしょう。歌って踊れる指揮者、北村先生のもとで頑張りましょうね。  

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 作詩・作曲・編曲者より 

作曲者・多田 武彦
「草野心平の詩から」作曲当時のエピソード

 1960年(昭和35年)のワグネルの演奏は、すさまじかった。新しく畑中・北村の両先生を指揮者に迎え、独唱ではない、合唱のすばらしさが、メンバーの心に宿り、名演奏への素地が確立された。60人足らずのメンバーの整然とした男声合唱に、世間は目を見はった。
 翌年のリサイタルのための新作を委嘱された私は、この勢いに応えるものを書かなくては、と追い込まれた。セザンヌやモネの好きな私の心に、モネの画風に似た「金魚」が、まず浮んだ。心平さんのよく用いる見事なオーバー・ラップ方式である。
 「金魚」を三曲目に据えることが決まると、二曲目にはこれと対称的な「天」を配した。(実は最初の構想は組曲「天」であったが、構想がまとまらなかった。)
 「金魚」が凝縮された小宇宙なら「天」は大宇宙。この前に、何かスケールの広いものをと思っているうちに、数年前合唱コンクールに応募するために混声合唱で書いた「石家荘にて」を男声化することにした。
 (組曲「雨」の「雨の来る前」は入選、組曲「柳河風俗詩」の「柳河」と、組曲「雪と花火」の「彼岸花」は佳作入選だったが、富士山の第拾陸や、白き花鳥図の鮎鷹、中勘助の詩からの絵日傘の各曲は、この石家荘にてと同じく、落選した。一つの楽曲は、演奏家の入魂の次第によって、息を吹きかえすものらしい。)
 構想を練っているうちに、この「石家荘にて・天・金魚」は心平さんの詩の中でも殊のほか、読者に凄まじい緊張感を与える詩群だ、ということに気付いた。このことが四曲目の湯治場の「雨」を生んだ。ほっとする詩と曲が欲しかった。そしてとうとう、この延長線上の終曲には、気を抜くことが出来なくなってしまった。私の今までの作品にはなかった曲想を求めているうちに「さくら散る」に到達した。外来合唱団は、アンコールというと「さくら――さくら――」を演じる。幼い頃から「桜という木の真髄は、落花の舞にある」と思いつめて来た私は、「さくら、さくら」と競り合いたくなった。「光と影がいりまじり」「雪よりも死よりもしずかに」「東洋の時間のなかで」「ガスライト色の」……、背筋の震える言葉が並んでいた。
 故福永陽一郎先生が書いていたとおり、翌1961年の畑中先生指揮によるワグネルの初演は見事だった。当日のプログラムに寄せられた畑中先生の「すぎしものへ」の一文も、多くのひとびとの心を打った。音楽や合唱の好きだった心平さんも、この初演のテープロ何度も聴いてから、「これは心平の展覧会の絵だな」と呟いてくれた。
 あれからもう30年余り、今宵も、初演のときの配役で、ワグネル十八番の一つが、桧舞台で上演される。   

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作曲者・三善 晃
もう一度イメージの海へ

 福永陽一郎編曲の《三つの抒情》男声合唱ヴァージョンは、初演時に譜面と録音で聴いた。女声合唱と違った陰影があり、それは、女声合唱が詩と私の間に許してくれていたある種の調和を、もう一度イメージのパラダイムに戻し、新たな《抒情》の観想を私に促した。貴重な体験を与えられたと思う。
 人間の前意識とも呼ばれる心の領域には、自分から別れる自分、自分が捨て去る自分が、謂わば「生の飛翔 ELAN VITAL」の逆説的な証として存在するが、作曲時29才だった私にも、それは屈折の激しい心の動態としてあった。失意が祈りの、虚無が愛の、それぞれ相互可貫的な実態であったその時、立原―中原―立原という詩の組み立ては私のなかの迷宮に相応している。「みんななくしてしまった」「いつはてるともしれない呪」「そそぎこめ すべてを 夜に… 花のみ 白く咲いてあれ!」このような錯乱の糸こそが、私の《抒情》だった。
 女声はそれをある色調の、ある記憶が介在する光景として描いてくれる媒体だった。男声は、そうでない。男声では、言葉が言葉とし穿たれるだろうから、「雲は死に」で雲は死ぬ。錯乱の糸はそのまま刻印されるだろう。その上で猶、三つの詩が《抒情》であるためには、私の原曲は、女声の衣装を脱いでイメージの海へ立ち還らねばならない。

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編曲者・源田 俊一郎
メッセージ

 ワグネルの皆さん第117回定期演奏会おめでとうございます。
 慶應といえば私は3年ほど前まで塾高で音楽の講師をしていたことがあり、時々なつかしく想い出します。授業の内容は、西洋音楽史や和声学など高校生にしてはかなり高度なものだったので、たまには合唱をと思い、慶應歌集の中から「塾歌」や「若き血」など何曲も歌ったことを憶えています。ひょっとしたら今日のメンバーの中に、あるいは客席に、その時の生徒がいるかも知れません……。
 さて、今回演奏して下さる「ディズニー名曲集」は、1986年に関西学院大学グリークラブによって委嘱初演されたものです。それから広島の崇徳高校グリークラブなど各地の男声合唱団によって再演されつづけてきました。
 ディズニーの世界はメロディーの宝庫であり、古き良きアメリカと思わせる魅力的な曲がたくさんあります。しかし1曲1曲は比較的みじかく、アレンジの上ではより多くの手法が要求されるものでした。思えばこの仕事の合間には、ほかの多くの仕事もこなさなくてはならず、締め切りをとっくに過ぎて関学からは矢のような催促の電話が……。さらに北村先生からも心配そうなお声でお電話をいただくなど、冷や汗をかきながら完成させた記憶があります。
 委嘱初演された作品が、二度と歌われることもなくお蔵入りになってしまうことを時々耳にします。新曲の良し悪しは別にしても、購買人口の少ない男声合唱の楽譜は、出版社としても出したがらないのが現実のようです。書き手にとっては出版された方がもちろんいいわけですが、出版されたけれども歌われない作品より、出版されなくても歌われ続ける作品の方に価値を置きたい、と私は思います。
 本日は北村先生の棒のもと、さまざまな凝った演出もあるようで楽しみです。ワグネルの皆さんのエネルギッシュな歌声と演出によって、この曲がさらに魅力的になり、聴き手の心に響くことを期待しています。  

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